dancyu×日本酒.com

(本文ここから)

酒の歳時記(さけのさいじき)ここに極まり!四季折々の日本酒と食の楽しみ方

長月:案内人・田中秀嗣&悦子(東京・六本木「さかなのさけ」店主&料理長)

しめさんま

サンマのきずし。これにピンッときた人は関西系、いわゆる寿司を思い浮かべた人は関東系の人だ。「寿司飯がないことに驚かれる人が多くて、しめさんまと呼ぶことにしました」と、大阪から移転してきた「さかなのさけ」の田中さんは当初の戸惑いを振り返る。きずしとは締めた魚のことで、関西では塩と酢で締める調理法もきずしと呼んだりする。「5年も経つとこの登場を心待ちにしてくれる方も増えてきました。サンマはずっと北海道・厚岸産。懇意にしている仲買いさんが早朝に買い付けた新鮮なサンマが航空便で14時過ぎには届きます」。大型で脂ののった旨さで定評のある厚岸産のサンマの中でも、大黒島沖で獲れた極鮮のサンマである。
それをきずしに仕立てるのは、料理長の通称・悦っちゃん。関東育ちだが、結婚して四半世紀以上を食い倒れの街・大阪で過ごした彼女がつくる料理はすっかり大阪仕込みだ。三枚に卸したサンマは塩で15分ほど締め、酢で漬けること5分。その後、昆布締めにするのが悦っちゃん流である。「サンマの状態によって昆布で締める時間は変わりますが、最低でも2時間以上かしら」。昆布締め?確かに西日本の「サバ寿司」や「バッテラ」には、昆布や白板昆布が巻きつけられていたりする。「サンマで昆布締めは珍しいかもしれないわね。でも、このほうがおいしいんだもの。それに、うちの味に昆布は欠かせません」と悦っちゃん。
さっそく脂ののった美しいツヤを放つサンマを一切れペロリ。醤油など要らない絶妙の塩梅に、はからずとも酒がほしくなる。すかさず「無濾過で酸味が生きている、味のしっかりした酒が合うと思いますよ」と田中さん。酒、しめさんま、酒、しめさんま……ああ、箸が止まらない。「米の力強さと素朴さが感じられる酒がいい。新米もサンマがおいしくなるのも秋。相性は最高です」。夜風に涼冷な空気が混ざり始めたら、ぬる燗も合いそうだ。サンマがもっとも旨い季節に、手をかけてもっとおいしくしてしまう悦っちゃん流。それを米の酒とともに味わえる口福。このサンマもきっと幸せに違いない。

■ 案内人 田中秀嗣(たなか ひでつぐ)&悦子(えつこ)

1978年の長野。大阪から来ていた田中秀嗣さんと東京から来ていた悦子さんは諏訪で出会い、気がついたら所帯をもっていたそう。食道楽・大阪の食文化は悦子さんにカルチャーショックを与えると同時に食いしん坊に火をつけ、やがて夜な夜な集まる食いしん坊仲間のために腕をふるうように。「安く、手早く、おいしく」の容赦ない洗礼を受け、悦子さんの料理の腕前はめきめきと上達。一方、秀嗣さんは折からの大吟醸ブームで日本酒の旨さに開眼し、日本酒ノートを片手に飲み歩き、ついには自宅に酒用冷蔵庫を設えてしまうほどハマる。やがて2人の考えは一つにまとまり、1987年8月、大阪・船場に「さかなのさけ」をオープン。21世紀に入り、17年3カ月に及ぶ歴史をいったん閉じて、2004年11月に東京・六本木に移転。カウンター席12席の小さな店は、お二人の人柄を目当てに集まる人々で賑わっている。

●さかなのさけ(さかなのさけ)
東京都港区六本木3-8-3
phone 03-3408-6383
[営業]18:00~23:00 入店
[休]日曜・祝日・月曜
※事前に電話確認を


(本文ここまで)