各地で鮎が解禁になる。香りのよさで知られる夏の川魚の代表格は、8月を過ぎていわゆる落ち鮎となるまで、酒席に涼を運んでくれるのである。そして、天然物の鮎を楽しめるこの期間、「井のなか」の気まぐれ料理として登場するのが「鮎のとも焼き」だ。
焼き鮎を味わう楽しみの一つに、ほろ苦いワタの旨さがあるが、この料理は“とも焼き”(共焼き)という手法によって、ワタの旨さが何倍にも増幅しているのである。
「鮎のワタは取り出してワインで煮詰めています」。なるほど!だから、さわやかな風味とコクが増しているのか。
「そのワタを裏ごしして“びしゃ玉”と呼ぶきわめて半熟の炒り卵に混ぜて……」。ええッ!なんという手間のかけようか!
「それを鮎の腹に戻して……、たっぷり詰めて焼きます」。佐久間さんは淡々と語るが、鮮度の高い天然物の鮎はただ塩焼きしただけでも十分に旨いのに、なんとも繊細な仕事を丁寧に施しているのである。
「すだちを添えていますが、まだ絞らないでくださいね」と声をかけてきたのは工藤さん。「酸味を加えると鮎の味がぐっと変わります。すると飲んでいる酒の印象も変わってしまうんです。そういう変化も味わって楽しんでほしい」。
まずは、冷えた純米酒で焼きたての鮎を味わい、酒が徐々に温まってくるのに合わせて、すだちをひと絞り。すだちの酸味が鮎の風味を引き締め、酒のキレにすっきり寄り添う。うん、いい感じだ。鮎の塩焼き以上に鮎の魅力を堪能できるこの料理、鬱陶しい梅雨が待ち遠しくなるお楽しみである。
■ 案内人 工藤卓也(くどう たくや)&佐久間辰男(さくま たつお)
店主の工藤氏は1972年生まれ。料理長の佐久間氏は1968年生まれ。2人が出会ったのは15年ほど前の鴨川グランドホテル。ホールと厨房に分かれていたものの意気投合、それぞれの天賦の才を発揮できる持ち場で修行に励む。5~6年後、別々の道を歩み始めるが、友情は健在。その後、工藤氏は彼が“酒の伝道師”としての頭角を表す茅場町にあった居酒屋の店長となるが、独立を決意。約2年半に及ぶ紆余曲折時間を経て、2006年に同店を構える。一方、その頃の佐久間氏は大手飲食店に勤務中。腕の確かさから、当然ながら重責に就いていた。3年ほど続いていた工藤氏からのラブコールは熱烈度を増し、遂にオープン半年後に佐久間氏も合流。ひらめき型の工藤氏との距離感も絶妙で、“猛獣使い”の異名をとる。酒を進める旨い料理と、そんな料理に寄り添うきれいな酒を楽しめる心地よい店として、夜な夜な酒好きで賑わっている。
●井のなか(いのなか)
東京都墨田区錦糸2-5-2
phone 03-3622-1715
[営業]17:00~22:30(L.O.)
[休]日曜・祝日
※予約が望ましい




