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酒の歳時記(さけのさいじき)ここに極まり!四季折々の日本酒と食の楽しみ方

睦月:案内人・植松哲洋(東京・下北沢「酒党 安寅゛」店主)・清水昭好(東京・下北沢「酒党 安寅゛」酒係)

「牡蠣のなめろう」「酢牡蠣」

やられた……!
「酒党 安寅゛」の冬の定番「牡蠣のなめろう」を初めて味わったなら、誰もがこう唸ることだろう。いや、絶句するばかりかもしれない。
きゅっと詰まった牡蠣の旨味、さわやかな風味、つるんとクリーミーな食感。牡蠣がもつ海のやわらかな塩気と味噌のコクがあいまって、より複雑で魅惑的な美味しさに昇華しているのである。さらに忘れてならないのが、薬味の青ねぎと菜の花の存在。とくに菜の花のコリッとした歯ごたえとほろ苦さは、牡蠣のなめらかさを受け止めつつ、いいアクセントになっている。
牡蠣は広島・地御前(じごぜん)のブランド牡蠣“健牡蠣”だ。「いろいろ試してみましたが、川崎健さんの牡蠣じゃないと」と店主の植松さん。川崎健さんとは川崎水産の社長であり、日本一の牡蠣を育てる情熱の人である。その川崎さんが日々研究し、毎年進化させている養殖法で育てる、ぷりんぷりんの牡蠣。「生牡蠣は大抵ペロリと一口で味わいますが、健さんの牡蠣を一口で食べ切ってしまうことが何とも惜しくて、考えついた料理です」。植松さん自身が“なめろう好き”だったことも大きいが、呑み助の心を鷲づかみにする発想は大歓迎である。
ところで、料理と酒の相性をいろいろ楽しんで欲しいと願う「酒党 安寅゛」では、日本酒は半合単位で供している。多くのものが半合400円也。料理ごとに酒を変えられる適量なのだが、「牡蠣のなめろうと、うちの酢牡蠣は小さな料理なのにお酒をおかわりされる方が多い。2人きりの店なので次の料理まで間がもつのはいいのですが、牡蠣1個ですでにほろ酔い加減に。健さんにも『これは確かに旨いけど、それじゃあ儲からんじゃろう』と心配されました」とお酒担当の清水さんは苦笑する。
「酢牡蠣」は1㎝角くらいに切った“健牡蠣”を辛味大根とあおさで和える一品。牡蠣の穏やかな海の香りと生あおさの磯の香りが奏でる美しいハーモニーに、辛味大根と生酢(きず)の酸味がキリッといい感じだ。刻々と牡蠣の身が締まり、食べ進むほどに変わる味わいも楽しい。この酢牡蠣は牡蠣の味が濃厚になる2月以降がとくにお薦めという。
いずれにしても、一口味わった瞬間に「酒飲みたい!」という衝動にかられる“安寅゛スタイル”の生牡蠣料理2品。「なめろうは合う酒が多いのですが、中でもお薦めは純米系の生酒っぽい酒。生貯蔵酒、生詰酒です。一方、酢牡蠣は酒を選びます。もともと酢と日本酒の相性は難しいのですが、普通酒や本醸造系がいいですね。しかも火入れしてあるほうが合わせやすい」と清水さん。
生牡蠣料理を注文したら、酒は清水さんにお任せするのが賢明というもの。間もなく、その日最高の“至福の瞬間”がやって来る。ちなみに、なめろう、酢牡蠣とも一人前は牡蠣1個分で550円也。すべてに、ただただ感謝である。

■ 案内人 植松哲洋(うえまつ てつひろ)&清水昭好(しみず あきよし)

店主の植松氏は1971年、東京生まれ。学生時代にアルバイトしていた日本料理店の紹介で、日本料理の道へ進む。一方、酒全般を担当する清水氏は1967年、埼玉生まれ。大好きな酒を仕事とするべく、バーテンダーとして修行を重ねていた。そんな2人を結びつけたのは12年ほど前の渋谷のビストロ&バー「ANDRA」。すでにソムリエについてワインを学んでいた清水氏と、フランス料理という新たなジャンルに飛び込んできた植松氏は出会ったのである。食べることが好き! 飲むことが好き! 楽しいことが好き! と約4年の歳月を過ごした後、やがて植松氏は恵比寿の居酒屋へ。しかし、2人のシンパシーは惹き合い、2005年に日本酒を柱とする「酒党 安寅゛」をオープン。酒の好みも似ているという2人は、料理と酒の相性を考えることを天命と受け止め、その夜一番の絶妙なプレゼンテーションを提案。学生が多いヤングタウン下北沢で、大人が通い詰める店として魅了し続けている。

●酒党 安寅゛(あんどら)
東京都世田谷区北沢2-31-2
大久ビル203
phone 03-3466-1543
[営業]18:30~翌1:30(L.O.)
[休]火曜
※事前に電話確認を
※3名以上は予約が望ましい


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