底冷えする寒い日が続くと、つい欲しくなるのが燗酒だ。「そんな夜は、冷えた手に一瞬熱く感じる上燗の45℃くらいがいいですね。ほどなくして酒の温度は下がり出し、やがて米や麹の香りがふわりと広がり始めます」とにこにこ顔で語る早坂さん。料理の味では甘・酸・鹹・苦・辛の五味のバランスを大事にし、酒と合わせるためには香りと温度も大切にしている。
そして今、早坂さんがあえて注目しているのが野菜とフルーツ。「とくに居酒屋には野菜料理が少ないんです。野菜の料理——可能なら野菜だけの料理を提案していきたいと考えています」。そうして上燗に合う料理としてつくってくれたのが「野菜の素揚げ 桜の花塩で」だ。新じゃが、新玉ねぎ、春かぶ、うどの芽の春野菜に、この日は大根、芹沢ごぼう、紫いも、スナップエンドウのラインナップ。新じゃがとスナップエンドウは軽く下ゆでしてあるが、低温から高温へ、じっくり揚げることで野菜がもつ自然な甘味や酸味はぎゅっと詰まり、鮮度ばつぐんの瑞々しさに濃厚な味わいが生まれる。
その熱いうちに塩をぱらりとふる。すると早坂さんは、少々粒感のある黒っぽいものを続けてふりかけた。「桜の花の塩漬けの乾煎りです」とにやりッ。野菜の土の香りと一緒に春がぽーんと香り立つ。早坂さんらしい遊び心だ。
「揚げ野菜には、もち米で仕込んだ酒など、甘さとキレを持ち合わせている酒を合わせたいかな。また、野菜料理は山の料理なので、たとえば、海の無い県の酒蔵や海から遠い酒蔵の酒を合わせてみるのも楽しいですよ」。春遠からじ……。そんな気分を燗酒と料理とともに味わえるのも、今だけのお楽しみである。
■ 案内人 早坂 登志男(はやさか としお)
1973年生まれ、青森県出身。中学卒業後、15歳で料理の世界に入り、23歳には和風レストランの料理長を任されるまでになる。その後、酒と料理を学ぶべく、居酒屋3軒で修業を重ねる。同時に、酒販店の勉強会などにも参加。2006年に独立し、同店を構える。“四季料理”を掲げているように、食材を通して季節感を先取りしたり、偲んだり、その日もっともおいしい料理と旨い酒を提供。定番は、故郷の青森シャモロックを使った料理。酒が進む料理ばかりだが、やわらぎ水を主人自ら提供するなど、健康的な飲酒への配慮も怠らない。そんな心憎い人柄も同店の魅力となっている。
●四季料理 天★(てんせい)
東京都杉並区梅里1-21-17
phone 03-3311-0548
[営業]18:00~23:00(L.O.)
[休]不定休
※予約が望ましい





