日替わりメニューを番付表スタイルで用意する「酒党 安寅゛」。お薦め料理に対して相性のいい酒を対照させてあり、店主の植松さんとお酒を担当する清水さんが料理を試食しながら試飲して決めた“絶妙なハーモニー”を楽しむことができる。酒は常時25~30種ある日本酒を中心に、ビール、紹興酒、ワインと幅広い。
そして、この時期、トップの座につくことが多いのが「蝦夷鹿」の料理だ。フランス料理から日本料理まで、幅広いテクニックをもつ植松さんは、その日合わせる酒によって料理をアレンジする。ロティ(炙り焼き)、カルパッチョ、煮込み、そして味噌漬けなど。北海道・根室のプロのハンターが仕留めているという蝦夷鹿は、深紅の濃密な肉質に穏やかな野性を秘めている。
「酒は料理と出合うと、よりおいしく味わえます。蝦夷鹿を日本酒に合わせるなら味噌漬けでしょう」と植松さん。信州味噌をベースに熟成させた味噌床に一昼夜漬け込んだもので、表面を焼きつけて旨味を閉じ込めた後、オーブンで香ばしく焼きあげる。訪ねた日の鹿肉が、今年から扱い始めたというあばら肉だったなら、それは超ラッキー。赤身と脂身、そしてスペアリブ(骨周りの肉)と、部位によってまったく違うおいしさをしゃぶり尽くしたい。とくに注目は脂身で、「赤身とはまったくの別物で、中でも味噌漬けにしたときのおいしさはたとえようがありません」と植松さんに言わしめるほどの絶品なのである。
「そして、この料理には燗酒、辛口の純米酒が合います」と清水さん。すっきりとしたキレがある特別純米酒や山廃造り、生酛造りの純米酒がお薦めという。ぬる燗をこくり。続けて、赤身肉に粗挽き黒胡椒をつけて味わう。「不思議なことに蝦夷鹿には黒胡椒なんです。しっとりとした赤身肉の滋味と黒胡椒の風味が合うのはもちろん、辛口の燗酒のピリッとした味わいと引き合い、蝦夷鹿の旨さがより際立ちます」とのこと。さらに、鹿肉を焼いた油でソテーした根菜やきのこも実においしく、たちまち至福に包まれる。
「蝦夷鹿はうちの冬支度なんです」と語った植松さん。となれば、冷え込む夜に呑み助がやることは一つ。燗酒で冬支度を決めこもうではないか。
■ 案内人 植松哲洋(うえまつ てつひろ)&清水昭好(しみず あきよし)
店主の植松氏は1971年、東京生まれ。学生時代にアルバイトしていた日本料理店の紹介で、日本料理の道へ進む。一方、酒全般を担当する清水氏は1967年、埼玉生まれ。大好きな酒を仕事とするべく、バーテンダーとして修行を重ねていた。そんな2人を結びつけたのは12年ほど前の渋谷のビストロ&バー「ANDRA」。すでにソムリエについてワインを学んでいた清水氏と、フランス料理という新たなジャンルに飛び込んできた植松氏は出会ったのである。食べることが好き! 飲むことが好き! 楽しいことが好き! と約4年の歳月を過ごした後、やがて植松氏は恵比寿の居酒屋へ。しかし、2人のシンパシーは惹き合い、2005年に日本酒を柱とする「酒党 安寅゛」をオープン。酒の好みも似ているという2人は、料理と酒の相性を考えることを天命と受け止め、その夜一番の絶妙なプレゼンテーションを提案。学生が多いヤングタウン下北沢で、大人が通い詰める店として魅了し続けている。
●酒党 安寅゛(あんどら)
東京都世田谷区北沢2-31-2
大久ビル203
phone 03-3466-1543
[営業]18:30~翌1:30(L.O.)
[休]火曜
※事前に電話確認を
※3名以上は予約が望ましい





