dancyu×日本酒.com

(本文ここから)

”マツザキ的”日本酒つれづれ用語帳 日本酒大辞典

【第10回】監修:松崎晴雄 文:堀越典子「酵母3年、米8年」 ※本文中の赤字の用語にロールオーバーすると解説が表示されます。

 穴があったら入りたい瞬間というのは、誰にでもあるもの。私の場合は、さしずめ利き酒で大きく外したときでしょうか。今でもよく覚えているのは、某日某所、酒造好適米をテーマとするセミナーを行ったときのこと。心白とは、麹米とは、掛米とはかくかくしかじか…ともっともらしく講義を終え、よせばいいのに、つい興にのって酒米の利き当てクイズに参加することに。間違えるはずはないと思っていた米の品種をすべて利き違え、フタを開けてみてア然、ボー然。面目なさに、地の底深くまで穴を掘っていきたい気分でした。いやいや、「桃、栗3年、柿8年」と申しますが、日本酒は、さしずめ「酵母3年、米8年」。酒米というのは実に難しいものだな、と思わずにいられません。
 この米の品種というもの、あまり利き当てに汲々とするのもどうかと思いますが、やはり相違はそれなりにあるわけで、その違いの実際を舌で確かめるのは、日本酒を味わう楽しみのひとつでもありましょう。私の場合、酒米のキャラクターは、好きな相撲になぞらえるとイメージしやすくなります。
 たとえば、酒造好適米の王者、山田錦。昭和11年のデビューから70余年、いまだに超えるものが出ない不世出の米は、力士にたとえるなら大横綱の双葉山か大鵬。がっぷり組んで万全の寄りで攻め、ソツなく勝利を収める正攻法の四つ相撲です。そういえば、“山田錦”という名前からして、横綱風の貫禄がありますね。

 対する雄町は、取り口でいえば、怒涛の寄りで攻める押し相撲。力士では、往年の柏戸がぴったりくる感じです。押しは強いけれど、攻め手のバラエティに欠く感じがなきにしもあらず。でも、またその不器用な感じが、好きな人にはたまらんといったところ。相撲には関係ないけれど、ゆったりとした大柄な女性をイメージすることもあります。出自が古い米ならではの、独特の野性味を感じるせいかもしれません。
 そこへいくと、五百万石は、どこかハラハラさせるソップ型の力士というのが、ぴったり。前さばきがうまく、相手の懐に入って前ミツをつかみ、相手の上体を起こして上手出し投げで仕留める。山田錦ほどの風格はないけれど、小ざっぱりしたよさ、枯淡としたニヒルな持ち味を感じます。
 酒造好適米も、年々新品種が増えている昨今。そのうち朝青龍タイプの酒米が登場してくるかもしれません。ちょっと飲んでみたいような、飲んでみたくないような…。


(本文ここまで)


酒造好適米

うるち米の中でも、日本酒への醸造適性が高い米のこと。具体的には、大粒で心白が大きい、たんぱく質や脂肪分の含有量が少ない、吸収力と保水力にすぐれる、蒸したときに“外硬内軟”の状態を保ちやすいなどの条件が挙げられる。一般米よりも背丈が高く、倒れやすいことから、栽培が難しい。ゆえに生産量が限定され、値段も高いため、吟醸造りをはじめ比較的高価な酒に使用されることが多い。農産物検査法に基づいて農林水産省が指定した酒造好適米(醸造用玄米)の産地品種銘柄は、平成20年度で延べ177種類。

心白

米の中央にある円形または楕円形をした不透明白色部分のこと。酒造好適米に欠かせない条件で、酒造好適米の呼称として“心白米”の言葉が使われることもある。心白が白く見えるのは、でんぷんの組織構成が粗く、隙間が多いために、光線を乱反射することによるもの。この隙間を埋めるように麹の菌糸が入り込んで生育し、中心に向かって繁殖していくことから、いわゆる“はぜ込み(麹米に麹の菌糸が生えること)”のよい状態が作りやすくなる。蔵言葉では「目ん玉」などとも呼ばれる。

麹米

麹造りに使う原料米のこと。その白米を蒸したものに種麹をふりかけ、さまざまな手入れを行いながら麹菌を繁殖させ、米のでんぷんを糖化することができるようにしたものが米麹である。特定名称酒では、清酒造りに使用する白米の総重量のうち、麹米の使用割合を15%以上に定めている。

掛米

麹米と対をなす米で、蒸した後に放冷して、直接もろみに仕込む米のこと。原料米全量の約70%を占め、一般米も使用することがあるが、酒質の向上を目指して麹米・掛米の両方に酒造好適米を使う贅沢な造りの日本酒が増えている。

山田錦

酒造好適米の代表格にして、最優良および最高級の品種として知られるトップスター。大正12年、兵庫県立農事試験場(現:兵庫県立農林水産技術総合センター)で「山田穂(やまだほ)」を母に、「短稈渡舟( たんかんわたりぶね)」を父に人工交配を行い、昭和11年に「山田錦」と命名され、奨励品種になった。重量、給水率、たんぱく質の含有量、精米しても砕けにくい特性など、すべての条件において優位に立つ。特有の華やかにして優美な香りと、熟成後に真価を発揮するふくよかな旨味が身上。現在は九州から東北まで幅広い都道府県で栽培されているが、兵庫県北西部一帯の特A地区を産地とする山田錦は、品質、値段ともに別格の存在。

雄町

酒造米の中では最古参に属する品種で、安政6年(1859年)頃、備前国上道群雄町村の篤農家が偶然見つけた2本の穂を持ち帰り、育成したのがはじまりとされる。大粒で心白が大きく、当時から酒米の優良品種と目されるほか、交配種としても重宝され、山田錦や五百万石などの改良品種を生んだ。草丈が1.8mにも達するために風邪に倒れやすく、病害虫に弱くて栽培が難しいことから、徐々に生産が減少。一時は「幻の米」と呼ばれるほど衰退していたが、昭和50年代、岡山県の利守酒造を中心とするグループが栽培を復活し、商品化に成功。現在も岡山県南部を主要産地とし、中でも赤磐郡赤坂町(旧軽部村)産の備前雄町が最高品質と目されている。

五百万石

昭和13年、新潟県立農業試験場(現:新潟県農業総合研究所)で「菊水」と「新200号」の人工交配により誕生。昭和32年に、新潟県が米生産量五百万石を突破したことを記念して「五百万石」の名前がついた。現在でも主要産地は新潟県で、県内の酒造好適米作付面積の90%が五百万石で占められる。近年は福島、茨城、栃木、群馬といった北関東エリア一帯、富山、石川、福井などの北陸エリア、京都、大阪、兵庫などの京阪神地区、南は福岡まで、栽培地区も広範にわたっている。大粒で軟質、心白が大きい酒造好適米の特性を備えているが、吸水速度がやや遅く、50%以上の高度精白に耐えにくいため、大吟醸には不向きとされる。酒に仕込んだときの口当たりのやわらかさ、滑らかさが特徴。どちらかというと淡麗系の酒で強みを発揮する。