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”マツザキ的”日本酒つれづれ用語帳 日本酒大辞典

【第8回】監修:松崎晴雄 文:堀越典子「生々しい話(1)」 ※本文中の赤字の用語にロールオーバーすると解説が表示されます。

 いきなりですが、私は携帯電話をうまく使いこなすことができません。フルに使っている機能といえば、通話くらいでしょうか。カメラ、ウェブ、メールの機能は、購入以来ノータッチ。アドレス帳の機能すら覚えるのが面倒で、電話をかけるたびごとに手帳(実物)を繰って番号を確かめる体たらく。おまけに、しばしばスライド式携帯のスライドを閉じるのを忘れ、キーロックもかけずにポケットに入れて持ち歩くものだから、知らないうちに方々に無言電話をかけてしまうはめに。ワンセグ?それは、いったいナンですか?状態。詳しい人から見れば、サル並みのレベルといえましょう。
 酒のコラムで、なぜこんな話を延々としているかと言えば、ケータイの世界と同じくらい日本酒の世界も変化している、と言いたかったから。そのわかりやすい例が、生酒でしょう。
 思い起こせば、生の酒のおいしさに開眼したのは、某酒蔵を見学で訪れた20歳の頃。槽口の酒を初めて口にして、その麹の香りの華やかさ、えもいわれぬみずみずしさ、甘やかな味わいに感激したものでした。当時は、今ほど冷蔵での流通が発達していなかったこともあって、“生”として売られている市販酒は、ほとんどなかったように記憶しています。

 そもそも “生酒=本生”はといえば、酒づくりで定石とされる2度の火入れ工程を省いたもの。つまり、搾ったままの状態で瓶詰め、出荷される酒の呼称でありますが、昭和50年代後半になって、火入れの回数を1度に減らしてフレッシュな生の風味を訴求した“生貯(生貯蔵酒)”、“生詰”などの商品が市場に登場します。いずれも、ひとくくりに「生酒」として扱われがちですが、本来は“半生”と呼ぶのが正しいところ。とはいえ、こうした商品が生まれた背景には、「生のおいしさを多くの人に届けたい」という蔵元の切なる願いがあったわけで、細かいことをつつくのはヤボというべきかもしれません。
 今では、正真正銘の本生も難なく買えるようになり、“生囲い”“生しぼり”などという魅惑的な文字が肩ラベルに躍る商品も増えてきました。しかし、こっそり白状すれば、最近の自分は、どちらかと言えば生よりも火入れ党。まして豊満なボリュームの無濾過生やその原酒では、最初の1杯はいいとしても、それ以上となると、いささか飲み疲れを覚えがち。そこへいくと、生と火入れのいいとこどりともいえる“生貯”や“生詰”には、半生ならではの穏やかさや、ほどよい落ち着きがあり、より好みに近い感じがします。
 ちなみに、同じ“生”の字が入っていても、“生一本(きいっぽん)”とあるのは、別物ですから、ご注意を。いろいろ種類がありすぎて、わかりにくい?まったくです。まあ、私に言わせれば、ケータイほどではないですが…。


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本生

もろみを搾ってから貯蔵、瓶詰め、出荷までの工程中、一切火入れ殺菌を行わない生酒の俗称。一般的には「生酒」の呼び方がより浸透しているが、生貯や生詰との混同を避けるために、業界では「本生」の表現を使って呼び分けることがある。「生生(なまなま)」ともいう。

生貯

「生貯蔵酒」の略称。もろみを搾った後の新酒を、火入れをせずに貯蔵タンクでねかせ、瓶詰め直前の火入れのみを行って出荷するお酒のこと。日本酒の伝統的な醸造法では2度の火入れ殺菌が基本だが、あえて火入れを1回に抑えることで、生酒のフレッシュな風味を残している。杜氏言葉では「先生(さきなま)」などとも呼ばれる。一切火入れをしない生酒より香りが控えめで飲み口が軽快に感じられるものが多いが、2度火入れの酒に比べると味が変わりやすいため、冷蔵庫での保管が望ましい。

生詰

搾ったばかりの新酒を火入れしてから貯蔵し、瓶詰め前の火入れは行わずに出荷するお酒。火入れを1回のみに抑えている“半生”の酒という点では「生貯」と同様だが、火入れのタイミングは正反対ということになる。火入れ後に貯蔵することで、ほどよい熟味が備わるため、生酒のみずみずしさを留めながらも、落ち着きのあるまろやかな味わいを特徴とする。杜氏言葉では「後生(あとなま)」などとも呼ばれる。タンク火入れを行った後、ひと夏の貯蔵を経て秋口に出荷される「冷やおろし」は生詰の典型といえるもの。生酒ほどデリケートな酒質ではないが、2度火入れの酒に比べると味は変わりやすいので、冷蔵庫での保管が基本。

生囲い

生酒のまま貯蔵し、一定期間熟成させた酒の呼称。“囲い”は酒造用語で“貯蔵”の意。冷蔵タンクに寝かせ、そのまま瓶詰めして出荷するケース(本生)、火入れをせずにタンクでねかせ、 瓶詰め直前の火入れのみを行って出荷するケース(生貯蔵酒)の2通りがある。いずれも、マイナス5℃前後の氷温で貯蔵されることが多いため、生酒のフレッシュな風味に適度な熟成の旨みがのって、こなれた味わいになる。

無濾過

酒造りにおいて、搾りを終えた後、香りや味や色を調整する「濾過」の工程をあえて省き、出荷される酒。濾過にはさまざな方法があり、従来の粉末状活性炭素を加えて不純物を取り除く手法(炭素濾過)に加え、粗い目の木綿や珪藻土、濾紙などをフィルターに使用するケースも多く見られる。一切の濾過を行わない酒を“無濾過”、炭素濾過を行わない酒を“素濾過”とする分け方もあるが、実際は後者の場合も含めて“無濾過”と表示する例が多く、その判断は酒造会社に委ねられているのが実情。いずれにしても、山吹色の濃い色合い、とろりとした濃密な味わいに特徴がある。全体に香りが高く、口にしたときのインパクトも強い。その濃厚な持ち味を活かすために、原酒のままで加水をせず、さらに火入れも行わずに出荷する“無濾過生原酒”が昨今のトレンドに。

生一本

酒税法で定める清酒の製法品質表示基準「単一の製造場のみで醸造した純米酒」を要件的に満たしている酒が名乗れる呼称。当然ながら、アル添酒の場合は「生一本」と表示できない。桶買いの純米酒を瓶詰めして売り出す場合もNG。昔は「最高品質の清酒」といった意味合いをもつ言葉として使われ、灘の酒がその代名詞として「灘の生一本」と呼ばれていた。