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”マツザキ的”日本酒つれづれ用語帳 日本酒大辞典

【第6回】監修:松崎晴雄 文:堀越典子 写真提供:秋田清酒 「利き酒会で会いましょう」 ※本文中の赤字の用語にロールオーバーすると解説が表示されます。

「マツザキさんは、どんな会場でもお見かけしますねぇ」
地方で開催される酒祭りから海外でのSAKEフェスティバルまで、日本酒関連のイベントで知り合いの方にお会いすると、感に堪えないといった調子でこう言われることがあります。おほめにあずかっているのか、はたまた呆れられているのか定かではないものの、イベント好きは自他共に認めるところ。とりわけ、各地で新酒の利き酒会が集中する3月~4月は、早くから手帳のスケジュールが真っ黒に埋まってしまいます。
利き酒会の楽しみは、なんといっても、さまざまなタイプのお酒を実際に舌で味わい比べてみることができること。初心者にはハードルが高そうに感じられる生酛山廃と、飲みなれた“その他大勢”のタイプ(「速醸」系の酒母で仕込まれたものが多い)を、複数の銘柄ごとに飲み比べる機会など、そうそうあるものではありません。もうひとつの魅力は、一般に“蔵人”と称される造り手の皆さんと直に会い、話ができること。特に、春の時期に行われる利き酒会では、無事に造りを終えてほっと一息の杜氏さんがブースに立つことも多く、手ずからお酌していただきながら、新酒にまつわる話をあれこれ聞く贅沢にあずかれるかもしれません。
さて、ここで、利き酒会を上手に楽しむためのコツをいくつか。
まず、最初にリストをもらったら、蔵元や出品銘柄の顔ぶれをざっと把握し、優先的に試飲したい酒を絞り込んでおきます。複数の蔵元が集まっている会であれば、1社に偏りすぎないように、バランスよく。1社ごとにすべてのタイプを利こうとすると、途中であえなく撃沈となる可能性も大。「ご飲用は計画的に」が、利き酒会の極意です。

口にする量も最初から飛ばしすぎず、ひとすすりくらいの分量を目安に。悪酔い防止には“和(やわ)らぎ水”(日本酒の合間に水を飲む)が効果的。そのためにも、多くの会場では蔵元が持ち込んだ仕込水が用意されています。かく言う私自身は、実を言うと、利き酒中にあまり水を飲みません。というのも、水を口に含むと舌の温度が下がりすぎ、酒の微妙な味わいの違いを感知しにくくなってしまうから。そのせいかどうか、帰る頃にはシラフを装いつつも、実体は“レレレのおじさん”と化していることが、しばしば。よい子の皆さんはマネをしないでくださいね。


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生酛

酒母づくりの工程において、最も伝統的とされる技法の名称。または、その酒母から造られた酒の呼称。酒母で酵母を培養するうえでは、乳酸が大きな役割を果たすことになるが、「生酛」の酒母づくりでは、米を粥状にすりつぶす「山卸し(やまおろし)」の作業によって、蔵内に浮遊している自然な乳酸菌や酵母菌を取り込み、ゆっくり発酵させる方法がとられる。酵母を十分に培養するまでには1ヵ月近くを要し、品質を一定に保ちにくいことから、より扱いの簡便な「速醸酛」が開発された明治40年以降は廃(すた)れる傾向にあった。しかし、近年は再び人気が復活。しっかりとした酸、濃醇な米の旨味といった本来の生酛らしさを備えながらも、吟醸造りを取り入れたモダンなタイプも多く登場し、新たな食中酒のトレンドとして注目を集めている。

山廃

酒母づくりの技法のひとつで、「山卸し(やまおろし)廃止酛(もと:「酒母」と同義)」の略称。または、その酒母から造られた酒の呼称。酒母の種類には、大利く分けて「生酛」系と「速醸」系の2種類があり、山廃は前者の簡便型バリエーションといえる。生酛系の酒母づくりでは、櫂棒で米を粥状にすりつぶす「山卸し」の作業が最も重労働とされていたが、明治40年頃に、この工程を省いても乳酸菌が繁殖し、問題なく酵母が培養されることが判明した。以来、「山卸し」を「廃止」し、省力化を進めた方法が略語の「山廃」として定着。味わい的には、酸度が高く、腰のすわった骨太な酒質を特徴とする。生酛同様、一時期は速醸系の清酒に押されがちだったが、最近は各地で若い造り手が山廃造りに挑戦するなど、復活の動きが活発化している。

速醸

酒母づくりにおける技法のひとつ。明治時代末期に醸造技師の江田鎌治郎によって考案された酒母育成法で、酒母の初期に乳酸を添加する。天然の乳酸菌を取り入れて発酵させる生酛の手法に比べ、気温の影響を受けにくく安定した酒質を得られやすいこと、酒母造りにかかる期間が約2週間(生酛は約1ヵ月)と大幅に短縮できるなどの利点があり、現在、多くの酒蔵では「速醸酛」による酒造りが主流となっている。生酛や山廃に比べると、より香りが立ちやすく、すっきりとした味わいに仕上がる。

酒母

麹・水・蒸し米の混ぜたタンクで、アルコール発酵を行うための酵母を純粋培養したもの。「酛(もと)」とも呼ばれる。もろみ発酵の過程においては、文字どおり母の役割を担うもので、「一麹、二酛、三造り(もろみ)」のたとえどおり、その工程は酒質の良否と深いかかわりをもつ。酒母造りの代表的な方法は、昔ながらの方法で手間と時間をかけて酵母を培養させる「生酛」法と、あらかじめ乳酸を添加して酵母の育成を促す「速醸」法の2タイプ。加えて、生酛の工程を一部簡略化した方法として、「山廃」がある。このほか、高温で糖化を進め、その後一気に温度を下げて酵母を添加する「高温糖化酒母」の技法も。最初の高温下で野生の酵母菌が死滅するため、添加酵母の特性が反映されやすく、香りのよい酒母造りに適している。

蔵人

酒造りに従事する従業員の総称。伝統的な職階では、杜氏をトップとして杜氏補佐(または「頭」〔かしら〕)、麹主任(または「麹屋」〔こうじや〕、酒母主任(または「酛屋」〔もとや〕)、酒母係、蒸米係(または「釜屋」〔かまや〕)、整備係、係員などの順位が設けられ、杜氏、杜氏補佐、麹主任を「三役」と呼ぶ。最近では、機械化が進んだことや、自ら酒造りの陣頭指揮を執る自社杜氏が増えるなど、一蔵あたりの従業員数が全体的に減ってきている事情も手伝って、各蔵人の分担する職務範囲は広がる傾向にある。

杜氏

酒造りを行う職人集団の最高責任者。直接的な起源は、農閑期の農民や時化で漁ができない漁師が、冬場に酒蔵へ出稼ぎに行くようになったのが始まりとされる。その際、造りに必要な一定の人員数を確保するため、同郷の若い男子を引き連れて集団で蔵に出稼ぎに行くスタイルが定着。江戸中期の「寒造り令」公布で酒造りが冬季に限定されるようになると、季節労働者の集団規模も次第に大きくなり、やがて「○○(出身地)杜氏」の名称を掲げる杜氏集団が形成されていった。酒造りの現場では、蔵の当主といえど口出しをできない絶対的な権限を有し、かつては「二冬で蔵が立つ」といわれるほどの高給を誇った時代も。最近は杜氏の高齢化や後継者不足の問題もあり、杜氏制を廃止して当主や後継者自らが杜氏を務める蔵も増えてきた。名称の由来には諸説があり、酒造りが女性の仕事とされていた時代、古語で「家事一般をとりしきる主婦」の意味をもっていた「刀自」を起源とする説、チームを率いるリーダーを表す「頭司」説などが有力視されている。

仕込水

酒造メーカー各社で、酒の仕込みに使われている水。ミネラル分を多く含む硬水、塩類の含有量が少ない軟水に分かれ、前者で仕込むと骨格のしっかりした辛口に、後者は口当たりのやわらかい甘口になりやすいとされる。代表的なものに、灘の硬水「宮水」と伏見の軟水「伏水」がある。蔵があるエリアの天然の湧き水や伏流水、井戸水が使用されることが多く、水の特質が酒の味にも大きく影響する。利き酒会などでは、各蔵元で使用している仕込水が会場に用意されていることが多い。酒を利くのと並行して、いろいろな蔵の仕込水をあれこれ飲み比べてみるのも面白い。