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”マツザキ的”日本酒つれづれ用語帳 日本酒大辞典

【第2回】監修:松崎晴雄 文:堀越典子 百聞は一飲にしかず ※本文中の赤字の用語にロールオーバーすると解説が表示されます。

「秋たけなわの10月から11月にかけては、春と並んで日本酒関係の行事が多い季節。各種きき酒会や鑑評会、地方で開催される大小の酒の会が相次ぎ、全国津々浦々を行ったり来たりの日々が続きます。会場に並ぶ酒はといえば、ひと夏を越して旨味ののった「ひやおろし」や、個性的な味わいの秘蔵古酒など、熟成酒の顔ぶれが充実してくるのが、この季節ならではの特徴。春に一度新酒で飲んでいる銘柄のこなれ具合を、再び舌で確かめる楽しみもあります。

こうして、あちこちに足を運びつつ、きき酒をする銘柄の数は、年間にならしてざっと10000種類ほど。風邪で体調がよくなかろうが、二日酔いであろうが、雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、きき酒の機会ありと聞けばホイホイ出かけてしまうのは、身についた性分のようなものといえるかもしれません。

飲み比べの楽しみにはまったのは、思い起こせば学生時代。クラブの合宿で地方に行くたび、まず地元の酒屋さんを探し当てて、とりどりの地酒を買い集めるのが常でした。とはいえ、一人で飲みきれるものでもなく、友人たちを巻き込みながらあれを飲み、これを飲み・・・。

生酒火入れの味の違い、濁り酒の朴訥として人懐い風味、杉の香りがほどよくのった樽酒の味わい深さ。そんな酒の個性を総当り的に知ることで、日本酒への興味がますます、つのっていったように思います。

当時、日本酒造組合が銀座で運営していた「日本酒センター」へも、せっせと足を運んだものでした。目当ては、日替わりで5種の酒で行われていた「きき酒コーナー」。高得点を目に留められ、「きき酒選手権に出ませんか」と言われたこともあります。ここでは低アル酒貴醸酒など、それまで知らなかった新しい酒の存在を知り、大いに目が開かれたものでした。

新しく開発されたこのような酒については、年季の入った日本酒党の人ほど、ハナから「邪道」と決めつける傾向が強いようですが、個人的には残念なことだと感じています。ことテイスティングにかぎって言えば、モノを言うのは知識よりも、場数を多く踏むためのフットワークと好奇心。「百聞は一飲にしかず」の柔軟性をもって、いろいろな酒との出会いを楽しんでほしいと思います。


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ひやおろし

春先に搾った新酒に一度火入れをし、夏を越して熟成させた後、秋口に出荷される酒のこと。江戸時代には、気温が高い春から夏の時期には、酒の変質を防ぐために2度火入れを行うのが定石だったが、秋に出荷する酒は酒質が安定しているため、あえて2度目の加熱殺菌を行わなず、「冷や」の状態で木樽に入れて「卸し」ていた。これが「冷や卸し」と呼ばれるようになり、秋の“旬な酒”として定着。ひと夏の熟成を経た酒は、新酒特有の荒々しさが消え、旨味が増して滑らかな味わいに。一方で、1度火入れゆえ、わずかな渋みを含む若々しさが感じられる点も「ひやおろし」の魅力。

古酒

醸造後、一定の期間にわたって貯蔵・熟成させた長期熟成酒のこと。その条件について、特に法律で定められているわけではないが、全国約50蔵で組織している「長期熟成酒研究会」(http://www.vintagesake.gr.jp/)の自主基準では「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」と定義し、吟醸酒などを低温で熟成させた「淡熟型」、純米酒や本醸造を常温で熟成させた「濃熟型」、低温貯蔵と常温貯蔵を併用した「中間型」の3タイプを設定している。
全体としては、ナッツのような甘く香ばしい熟成香、まろやかな口当たり、酔い覚めのよさなどが特徴として挙げられるが、新酒のときの酒質、保存の温度などの条件により、経年変化もさまざま。同じヴィンテージでも色の濃淡や酸味と甘みのバランス、飲んだ後の余韻まで、千差万別の違いが見られるのが面白いところ。肉料理や乳製品、脂っこい中華料理と相性のよい古酒も多い。

新酒

秋に収穫された新米で仕込み、熟成を経ずに出荷される酒のこと。以前は年明け~早春にかけての流通が主流だったが、年内から出荷する蔵も増えてきた。熟成がかからないゆえのフレッシュで溌剌(はつらつ)とした風味が身上で、日本酒を飲みなれない人の口にも合いやすい。
従来は次の年度の酒が出るまでを広義に「新酒」と呼んでいたが、四季醸造の蔵では年度をまたいで「新酒」が造られることもあり、今では冒頭で紹介した定義が一般的なものとなっている。江戸時代には、初物好きの江戸っ子の間で初鰹と下り酒(上方から江戸へ運ばれる酒)の新酒が人気を集め、新酒を積み込んだ船の海上レースも行われていたと伝えられる。

生酒

搾った後の火入れを一切行わずに瓶詰・出荷される酒。業界内では「生生(なまなま)」「本生(ほんなま)」とも呼ばれる。加熱をしないことによって備わるみずみずしくフルーティーな香味、“生酒香”と呼ばれる独特の香りがビギナーに好まれやすい反面、「味が浅い」「荒々しい」といった理由で敬遠する生粋の日本酒党も少なからず。火入れの酒に比べて劣化が早いとされるが、そのぶん、封を開けてからも日毎に味の変化を確かめられる楽しみがある。太い酒質をもつものであれば、冷蔵庫や冷暗所、時には常温で寝かせておいたにもかかわらず、熟成を経て絶品の1本に“大化け”するケースも。

火入れ

搾った酒を貯蔵前に加熱・殺菌し、酵素の動きを止めて酒質を安定させるための技術。フランスのパスツールが19世紀に発見した「ワインの低温殺菌法」に先立つこと250年前、室町時代後期から実施されていた画期的な酒の保存法。酒が白濁する原因となる火落ち菌の混入を防ぐ目的もある。通常は、蛇管(じゃかん)と呼ばれる熱交換のための機械やパネルヒーターを使って、65度前後に加熱した後、急冷する方法が基本形だが、酒を瓶に入れた状態で湯煎にかける「瓶燗火入れ」を取り入れる蔵も増えてきた。瓶燗での火入れは、酒の風味や香味がとぶのを最小限に抑え、かつ酒質を若く保てるメリットがある。

濁り酒

発酵後のもろみを搾る際、ある程度目の粗い網や布などで濾過し、白濁させた清酒。発酵の状態や濾過の程度により、うっすらと滓(おり)が残る程度の“うすにごり”や、真っ白に白濁したどぶろく風のものまで、濁り具合も多種多様。ガスが残って発泡性のあるタイプは「活性清酒」とも呼ばれ、酒質を安定させるために火入れしてから出荷されるものも多い。ちなみに濁り酒の原型である「どぶろく」は、もろみを濾過せずにそのまま飲むもの。酒税法上では「その他の醸造酒」の中の「濁酒」のカテゴリーに分類されている。

樽酒

杉の樽に貯蔵し、木の香りを移した酒。古くは、お酒は甕(かめ)やひょうたんに入れて貯蔵されていたが、室町時代から江戸時代にかけてノコギリとカンナを使って樽を造る技術が確立したことから、持ち運びしやすい清酒用の輸送容器として一般に普及した。樽の素材で最上とされるのは、香りがよく、木目の均一な吉野杉。杉の木は表皮の白い部分と、中身の赤い部分の2層構造になっているが、香りがより強いのは中身のほう。樽の外側に白い表皮を使い、内側に赤い部分を張った2色仕立ての樽は「甲付」と呼ばれ、見映えのよさからパーティーなどで重用される。

低アルコール酒

日本酒離れの傾向を受けて、「低アルコールで飲みやすい酒」をコンセプトに開発されたリキュールタイプの日本酒。「低濃度酒」ともいう。日本酒を飲みなれない女性や、アルコールに強くない人でも抵抗なく口にできるよう、アルコール度数を8度~10度程度に抑えたものが主流。フルーツや花の酵母を使用することによってフルーティな香りを添えたタイプ、古代米の使用で美しいピンク色に仕立てたタイプ、ドライなスパークリングを思わせる発泡タイプなど、味わいのバリエーションも幅広い。

貴醸酒

仕込み水代わりに、あるいは仕込み水の一部に清酒を使用し、発酵させて造る。ルーツは、平安時代に造られていたとされる「御酒(ごしゅ)。発酵後のもろみを漉す→蒸し米と麹米を入れて発酵→濾過、の行程で造られた酒であることが、当時の宮中儀式の規定書「延喜式」にも記されている。
もろみが発酵する初期の段階から高濃度のアルコールにさらされるため、酵母の発酵が抑えられ、そのぶんエキスが残存してとろりと濃厚な甘みが備わる。熟成に向く酒質で、長期貯蔵によって複雑なコクや濃密な旨みが備わったタイプは、ブルーチーズやチョコレートなどと合わせてデザートに楽しむのもおすすめ。現在の醸造法は、国税庁醸造試験所(現・醸造研究所)が宮中秘伝のレシピを元に開発し、1975(昭和50)年に特許公開されたもの。