日本酒についてのよもやま話と用語についての説明を、徒然なるままに、少しずつ―。そんな趣旨で始まったこのコラムも、早いもので13回目になりました。2クール目では、日本酒の造りや利き酒のノウハウなど、より具体的かつ実践的なトピックを取り上げていきたいと思っていますが、今回はそのマクラとして、秋の夜長にふさわしい燗の話題を少々。
この数年来、燗酒が静かな人気を呼んでいます。年季の入った日本酒党の人はもちろん、試飲会で初めて冷やと燗の飲み比べを体験して、その虜になってしまう人も多いよう。私の周りでも、濁り酒を燗で楽しんだり、「生熟(熟成させた生酒)の人肌燗がたまらない」「古酒の燗冷ましが最高」などとつぶやくツワモノの女子が少なくありません。都内の某ホテルでは真夏に燗酒オンリーのイベントが開催され、こちらも例年なかなかの盛況の様子。頼もしいことであります。
しかし、私自身にとっての燗酒は、やっぱり秋以降の季節が本番。夜風に秋の気配がこもる頃、脂ののったサンマの塩焼きや、新鮮な生筋子で作ったイクラの醤油漬けを肴に、あるいは一足早い鍋開きで、ふつふつと煮える豆腐なんぞをつつきながら一杯。こんな場面では、どうしたって「これは燗しかなかんべ」となるのが道理。理屈ではなく、カラダが欲する感じです。
そうと決まれば、徳利に盃や猪口、錫ぐい呑みに、ちろりがセットされた卓上型のお燗器やら、湯煎式の燗つけ器やら、複数の道具を総動員して燗つけ開始。それぬる燗だ、やれ上燗だ、熱燗だ、と温度計を忙しく操りながら、ついでは飲み、つがれては飲み…。ついつい量が進んでしまいがちですが、多少度を越してしまったかなと思っても、翌日の酔い覚めが悪くないのが燗酒のいいところです。よく言われるとおり、体にやさしい。そして、線が細いと印象の酒が意外な燗上がりを見せたり、反対に、いかにも燗向きっぽい酒が予想外に尻つぼみだったりと、温めることで別の器量が見えてくる面白さがあります。
個人的に好きな燗酒はといえば、一言で言って「押し味のある」タイプでしょうか。口中にぐぐっとせり上がってくるような立体感があり、温めるとともにピントが絞られ、相応のポイントで味の照準がぴたりと合う酒。そんな好みのツボを突いた燗酒の旨さは、まさに「五臓六腑にしみわたる」の表現そのままに体をかけめぐり、末端までじ~んとしびれさせてくれます。“五臓”の中に肝臓が入ってなければ、もっと心おきなく楽しめるんですけどねぇ…。




