記録的な豪雨に竜巻、立秋になっても明けない長梅雨と、異常気象が続く2009年ニッポンの夏。なんでも、1993年とよく似たエルニーニョ現象の仕業らしいということで、日本酒飲みとしては、まず米の作況が気になるところ。なにせ、93年といえば、冷夏による凶作で深刻なコメ不足に見舞われた年。タイ米の緊急輸入問題に揺れた「平成の米騒動」を覚えている人も多いと思いますが、酒造メーカー各社でも、配分されるはずの酒造好適米が入手困難になるなど、原料の調達に大変な苦労があったと聞いています。奇しくも、その前年には特定名称酒の品質表示基準が定められ、80年代前後から始まった吟醸酒ブームを受けて、原料米やその銘柄に対する関心が高まっていた折でもありました。
当時、酒造米の中でも最もホットな注目を集めていたのは、なんといっても亀の尾でしょう。尾瀬あきら先生の漫画『夏子の酒』に登場する幻の酒米“龍錦”のモデル品種として、あまりにも有名ですが、連載に先立つ1983年、新潟の久須美酒造から亀の尾を復活させて醸造した吟醸酒「亀の翁」が製造・販売されたときの興奮は、今も鮮明に覚えています。
社会人になって1年目、今で言う地酒マニアの一人にすぎなかった頃、『地酒ファン』という、これまたマニアックなタイトルの雑誌(5~6号で廃刊?)で発売を知り、さっそく手に入れたのが年の暮れ。正月用の酒として、復活のロマンに胸をときめかせながら、ちびちびと大事に味わったものでした。越後酒特有の淡麗さに加え、可憐な表情を備えた風味は、今でも強く印象に残っています。
亀の尾という米は、神力などとも共通する昔の米ならではの野趣、よくも悪くも渋味や酸味の振幅があり、山田錦や五百万石といったメジャーどころの新しい米と比べると、全体のバランスに欠けるところがあるかもしれません。その一方で、食中酒としての面白味があり、料理との相性で意外な包容力を発揮することがあります。
そこへいくと、やはり単米酒(単一の種類の酒米で造る酒)のブランドとしておなじみの美山錦、八反錦などは線が細く、時として固くて浅い印象を受けることもありますが、さらりとした飲みやすさが身上。愛山は対照的に、ぽってりと重く、濃艶な甘みを感じることが多いでしょうか。いずれも、きれいに決まったときは、それぞれに特徴的な魅力をたっぷりふりまいてくれます。
こんな贅沢な飲み比べも、豊穣の恵みがあってこそ。地球の裏側で坊や(エル・ニーニョ)のご機嫌が直ることを祈るばかりです。




