穴があったら入りたい瞬間というのは、誰にでもあるもの。私の場合は、さしずめ利き酒で大きく外したときでしょうか。今でもよく覚えているのは、某日某所、酒造好適米をテーマとするセミナーを行ったときのこと。心白とは、麹米とは、掛米とはかくかくしかじか…ともっともらしく講義を終え、よせばいいのに、つい興にのって酒米の利き当てクイズに参加することに。間違えるはずはないと思っていた米の品種をすべて利き違え、フタを開けてみてア然、ボー然。面目なさに、地の底深くまで穴を掘っていきたい気分でした。いやいや、「桃、栗3年、柿8年」と申しますが、日本酒は、さしずめ「酵母3年、米8年」。酒米というのは実に難しいものだな、と思わずにいられません。
この米の品種というもの、あまり利き当てに汲々とするのもどうかと思いますが、やはり相違はそれなりにあるわけで、その違いの実際を舌で確かめるのは、日本酒を味わう楽しみのひとつでもありましょう。私の場合、酒米のキャラクターは、好きな相撲になぞらえるとイメージしやすくなります。
たとえば、酒造好適米の王者、山田錦。昭和11年のデビューから70余年、いまだに超えるものが出ない不世出の米は、力士にたとえるなら大横綱の双葉山か大鵬。がっぷり組んで万全の寄りで攻め、ソツなく勝利を収める正攻法の四つ相撲です。そういえば、“山田錦”という名前からして、横綱風の貫禄がありますね。
対する雄町は、取り口でいえば、怒涛の寄りで攻める押し相撲。力士では、往年の柏戸がぴったりくる感じです。押しは強いけれど、攻め手のバラエティに欠く感じがなきにしもあらず。でも、またその不器用な感じが、好きな人にはたまらんといったところ。相撲には関係ないけれど、ゆったりとした大柄な女性をイメージすることもあります。出自が古い米ならではの、独特の野性味を感じるせいかもしれません。
そこへいくと、五百万石は、どこかハラハラさせるソップ型の力士というのが、ぴったり。前さばきがうまく、相手の懐に入って前ミツをつかみ、相手の上体を起こして上手出し投げで仕留める。山田錦ほどの風格はないけれど、小ざっぱりしたよさ、枯淡としたニヒルな持ち味を感じます。
酒造好適米も、年々新品種が増えている昨今。そのうち朝青龍タイプの酒米が登場してくるかもしれません。ちょっと飲んでみたいような、飲んでみたくないような…。




